みんなに向うの国の話をしました。
お話がすんでから博士は校長さんたちと運動場に出てそれからあの虔十の林の方へ行きました。
すると若い博士は愕《おど》ろいて何べんも眼鏡《めがね》を直していましたがとうとう半分ひとりごとのように云いました。
「ああ、ここはすっかりもとの通りだ。木まですっかりもとの通りだ。木は却《かえ》って小さくなったようだ。みんなも遊んでいる。ああ、あの中に私や私の昔の友達が居ないだろうか。」
博士は俄《にわ》かに気がついたように笑い顔になって校長さんに云いました。
「ここは今は学校の運動場ですか。」
「いいえ。ここはこの向うの家の地面なのですが家の人たちが一向かまわないで子供らの集まるままにして置くものですから、まるで学校の附属《ふぞく》の運動場のようになってしまいましたが実はそうではありません。」
「それは不思議な方ですね、一体どう云うわけでしょう。」
「ここが町になってからみんなで売れ売れと申したそうですが年よりの方がここは虔十のただ一つのかたみだからいくら困っても、これをなくすることはどうしてもできないと答えるそうです。」
「ああそうそう、ありました、ありま
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