9−6]らぃ。」
「家のうしろの野原さ。」
そのとき虔十の兄さんが云ひました。
「虔十、あそごは杉植※[#小書き平仮名ゑ、49−9]でも成長《おが》らなぃ処《ところ》だ。それより少し田でも打って助《す》けろ。」
虔十はきまり悪さうにもぢもぢして下を向いてしまひました。
すると虔十のお父さんが向ふで汗を拭《ふ》きながらからだを延ばして
「買ってやれ、買ってやれ。虔十ぁ今まで何一つだて頼んだごとぁ無ぃがったもの。買ってやれ。」と云ひましたので虔十のお母さんも安心したやうに笑ひました。
虔十はまるでよろこんですぐにまっすぐに家の方へ走りました。
そして納屋から唐鍬《たうぐは》を持ち出してぽくりぽくりと芝を起して杉苗を植ゑる穴を掘りはじめました。
虔十の兄さんがあとを追って来てそれを見て云ひました。
「虔十《けんじふ》、杉ぁ植る時、掘らなぃばわがなぃんだぢゃ。明日まで待て。おれ、苗買って来てやるがら。」
虔十はきまり悪さうに鍬《くは》を置きました。
次の日、空はよく晴れて山の雪はまっ白に光りひばりは高く高くのぼってチーチクチーチクやりました。そして虔十はまるでこらへ切れないやう
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