ににこにこ笑って兄さんに教へられたやうに今度は北の方の堺《さかひ》から杉苗の穴を掘りはじめました。実にまっすぐに実に間隔正しくそれを掘ったのでした。虔十の兄さんがそこへ一本づつ苗を植ゑて行きました。
 その時野原の北側に畑を有《も》ってゐる平二がきせるをくはへてふところ手をして寒さうに肩をすぼめてやって来ました。平二は百姓も少しはしてゐましたが実はもっと別の、人にいやがられるやうなことも仕事にしてゐました。平二は虔十に云ひました。
「やぃ。虔十、此処《ここ》さ杉植るな※[#小書き平仮名ん、50−11]てやっぱり馬鹿《ばか》だな。第一おらの畑ぁ日影にならな。」
 虔十は顔を赤くして何か云ひたさうにしましたが云へないでもぢもぢしました。
 すると虔十の兄さんが、
「平二さん、お早うがす。」と云って向ふに立ちあがりましたので平二はぶつぶつ云ひながら又のっそりと向ふへ行ってしまひました。
 その芝原へ杉を植ゑることを嘲笑《わら》ったものは決して平二だけではありませんでした。あんな処に杉など育つものでもない、底は硬い粘土なんだ、やっぱり馬鹿は馬鹿だとみんなが云って居《を》りました。
 それは全く
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