らみんなも、
「名からしてぬすと臭《くさ》い。」と云いながら、森へ入って行って、「さあ粟返せ。粟返せ。」とどなりました。
 すると森の奥から、まっくろな手の長い大きな大きな男が出て来て、まるでさけるような声で云いました。
「何だと。おれをぬすとだと。そう云うやつは、みんなたたき潰《つぶ》してやるぞ。ぜんたい何の証拠《しょうこ》があるんだ。」
「証人がある。証人がある。」とみんなはこたえました。
「誰《たれ》だ。畜生《ちくしょう》、そんなこと云うやつは誰だ。」と盗森は咆《ほ》えました。
「黒坂森だ。」と、みんなも負けずに叫びました。
「あいつの云うことはてんであてにならん。ならん。ならん。ならんぞ。畜生。」と盗森はどなりました。
 みんなももっともだと思ったり、恐《おそ》ろしくなったりしてお互《たがい》に顔を見合せて逃げ出そうとしました。
 すると俄《にわか》に頭の上で、
「いやいや、それはならん。」というはっきりした厳《おごそ》かな声がしました。
 見るとそれは、銀の冠《かんむり》をかぶった岩手山でした。盗森の黒い男は、頭をかかえて地に倒《たお》れました。
 岩手山はしずかに云いました
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