今年こそは、どんな大きな粟餅をこさへても、大丈夫だとおもつたのです。
 そこで、やつぱり不思議なことが起りました。
 ある霜の一面に置いた朝納屋のなかの粟が、みんな無くなつてゐました、みんなはまるで気が気でなく、一生けん命、その辺をかけまはりましたが、どこにも粟は、一粒もこぼれてゐませんでした。
 みんなはがつかりして、てんでにすきな方へ向いて叫びました。
「おらの粟知らないかあ。」
「知らないぞお。」森は一ぺんにこたへました。
「さがしに行くぞ。」とみんなは叫びました。
「来お。」と森は一斉にこたへました。
 みんなは、てんでにすきなえ物を持つて、まづ手近の狼森《オイノもり》に行きました。
 狼《オイノ》共は九疋共もう出て待つてゐました。そしてみんなを見て、フツと笑つて云ひました。
「今日も粟餅《あはもち》だ。こゝには粟なんか無い、無い、決して無い。ほかをさがしてもなかつたらまたこゝへおいで。」
 みんなはもつともと思つて、そこを引きあげて、今度は笊森《ざるもり》へ行きました。
 すると赤つらの山男は、もう森の入口に出てゐて、にや/\笑つて云ひました。
「あはもちだ。あはもちだ
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