。おらはなつても取らないよ。粟をさがすなら、もつと北に行つて見たらよかべ。」
 そこでみんなは、もっともだと思つて、こんどは北の黒坂森、すなはちこのはなしを私に聞かせた森の、入口に来て云ひました。
「粟を返して呉《け》ろ。粟を返して呉ろ。」
 黒坂森は形を出さないで、声だけでこたへました。
「おれはあけ方、まつ黒な大きな足が、空を北へとんで行くのを見た。もう少し北の方へ行つて見ろ。」そして粟餅のことなどは、一言も云はなかつたさうです。そして全くその通りだつたらうと私も思ひます。なぜなら、この森が私へこの話をしたあとで、私は財布からありつきりの銅貨を七《しち》銭出して、お礼にやつたのでしたが、この森は仲々受け取りませんでした、この位気性がさつぱりとしてゐますから。
 さてみんなは黒坂森の云ふことが尤《もつと》もだと思つて、もう少し北へ行きました。
 それこそは、松のまつ黒な盗森《ぬすともり》でした。ですからみんなも、
「名からしてぬすと臭い。」と云ひながら、森へ入つて行つて、「さあ粟返せ。粟返せ。」とどなりました。
 すると森の奥から、まつくろな手の長い大きな大きな男が出て来て、まるでさ
前へ 次へ
全14ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング