した。
狼《オイノ》は、どうしたらいゝか困つたといふやうにしばらくきよろ/\してゐましたが、たうとうみんないちどに森のもつと奥の方へ逃げて行きました。
そこでみんなは、子供らの手を引いて、森を出ようとしました。すると森の奥の方で狼どもが、
「悪く思はないで呉《け》ろ。栗《くり》だのきのこだの、うんとご馳走《ちそう》したぞ。」と叫ぶのがきこえました。みんなはうちに帰つてから粟餅《あはもち》をこしらへてお礼に狼森へ置いて来ました。
春になりました。そして子供が十一人になりました。馬が二|疋《ひき》来ました。畠《はたけ》には、草や腐つた木の葉が、馬の肥《こえ》と一緒に入りましたので、粟や稗《ひえ》はまつさをに延びました。
そして実もよくとれたのです。秋の末のみんなのよろこびやうといつたらありませんでした。
ところが、ある霜柱のたつたつめたい朝でした。
みんなは、今年も野原を起して、畠をひろげてゐましたので、その朝も仕事に出ようとして農具をさがしますと、どこの家《うち》にも山刀《なた》も三本鍬《さんぼんぐは》も唐鍬《たうぐは》も一つもありませんでした。
みんなは一生懸命そこらをさ
前へ
次へ
全14ページ中7ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング