たが、顔を染めるときはくちばしを水の中に入れるのでしたから、どの鳥もよっぽど苦しいやうでした。
 うっかり息を吸ひ込まうもんなら、胃から腸からすっかりまっ黒になったり、まっ赤になったりするのでしたから、それはそれは気をつけて、顔を入れる前には深呼吸のときのやうに、息をいっぱいに吸ひ込んで、染まったあとではもうとても胸いっぱいにたまった悪い瓦斯《ガス》をはき出すといふあんばいだったさうです。それでも小さい鳥は、肺もちひさく、永くこらへて居れませんでしたから、あわてて死にさうな声を出して顔をあげたもんだと申します。こんなのはもちろん顔が染まりません。たとへばめじろは眼のまはりが染まらず、頬《ほほ》じろは両方の頬が染まって居りません。」
 私はこゝらで一つ野次《やじ》ってやらうと思ひました。
「ほう、さうだらうか。さうだらうか。さうだらうかねえ。私はめじろや頬じろは、自分からたのんであの白いとこは染めなかったのだらうと思ふよ。」
 梟《ふくろふ》は少しあわてましたが、ちょっとうしろの林の奥の、くらいところをすかして見てから言ひました。
「いゝえ、そいつはお考へちがひです。たしかに肺の小さなた
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