した。烏《からす》と鷺《さぎ》とはくてうとこの三|疋《びき》だけだったのです。
 烏は毎日でかけて行って、今日こそ染めて貰《もら》ひたい今日こそ染めて貰ひたいとしきりにうるさくせつきました。
 明日にしろよ、明日にしろよ、と鳶《とんび》がいつでも云ひました。それがいつまでも延びるのです。
 烏が怒って、たうとうある日、本気に談判をしたのです。
『一体どう云ふ考だい。染屋と看板がかけてあるからやって来るんだ。染屋をよすならきちんとやめてしまふがいゝ。何日たっても明日来い明日来いぢゃもう承知ができない。染めるんならもうきっと今すぐやって呉れ。どっちもいやならおれも覚悟があるから。』
 鳶はその日も眼を据ゑて朝から油を呑《の》んでゐましたが斯《か》う開き直られては少し考へました。染屋をやめても、金には少しも困らんが、たゞその名前がいたましい。やめたくもない。けれどもいまごろから稼《かせ》ぎたくもないしと考えながらとにかく斯う云ひました。
『ふん、さうだな。一体どう云ふふうに染めてほしいのだ。』
 烏は少し怒りをしづめました。
『黒と紫で大きなぶちぶちにしてお呉れ。友禅模様のごくいきなのにして
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