お呉れ。』
とんびがぐっとしゃくにさはりました。そしてすぐ立ちあがって云ひました。
『よし、染めてやらう。よく息を吸ひな。』
烏もよろこんで立ちあがり、胸をはって深く深く息を吸ひました。
『さあいゝか。眼をつぶって。』とんびはしっかり烏をくはへて、墨壺《すみつぼ》の中にざぶんと入れました。からだ一ぱい入れました。烏はこれでは紫のぶちができないと思ってばたばたばたばたしましたがとんびは決してはなしませんでした。そこで烏は泣きました。泣いてわめいてやっとのことで壺からあがりはしましたがもうそのときはまっ黒です。烏は怒ってまっくろのまま染物小屋をとび出して、仲間の鳥のところをかけまはり、とんびのひどいことを云ひつけました。ところがそのころは鳥も大ていはとんびをしゃくにさはってましたから、みな一ぺんにやって来て、今度はとんびを墨つぼに漬《つ》けました。鳶はあんまり永くつけられたのでたうとう気絶をしたのです。鳥どもは気絶のとんびを墨のつぼから引きあげて、どっと笑ってそれから染物屋の看板をくしゃくしゃに砕いて引き揚げました。
とんびはあとでやっとのことで、息はふき返しましたが、もうからだ中ま
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