んで門をあけようとして、番兵たちに叱《しか》られるもの、もちろん王のお宮へは使が急いで走つて行き、城門の扉《と》はぴしやんと開《あ》いた。おもての方の兵隊たちも、もううれしくて、馬にすがつて泣いてゐる。
 顔から肩から灰いろの、北守将軍ソンバーユーは、わざとくしやくしや顔をしかめ、しづかに馬のたづなをとつて、まつすぐを向いて先登に立ち、それからラッパや太鼓の類、三角ばたのついた槍《やり》、まつ青に錆《さ》びた銅のほこ、それから白い矢をしよつた、兵隊たちが入つてくる。馬は太鼓に歩調を合せ、殊にもさきのソン将軍の白馬《しろうま》は、歩くたんびに膝《ひざ》がぎちぎち音がして、ちやうどひやうしをとるやうだ。兵隊たちは軍歌をうたふ。
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「みそかの晩とついたちは
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砂漠《さばく》に黒い月が立つ。
西と南の風の夜は
月は冬でもまつ赤だよ。
雁《がん》が高みを飛ぶときは
敵が遠くへ遁《に》げるのだ。
追はうと馬にまたがれば
にはかに雪がどしやぶりだ。」
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 兵隊たちは進んで行つた。九万の兵といふものはたゞ見ただけでもぐつたりする。

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