雁《かり》さへ干せてたびたび落ちた
おれはその間馬でかけ通し
馬がつかれてたびたびペタンと座り
涙をためてはじつと遠くの砂を見た。
その度ごとにおれは鎧《よろひ》のかくしから
塩をすこうし取り出して
馬に嘗《な》めさせては元気をつけた。
その馬も今では三十五歳
五里かけるにも四時間かゝる
それからおれはもう七十だ。
とても帰れまいと思つてゐたが
ありがたや敵が残らず脚気《かくけ》で死んだ
今年の夏はへんに湿気が多かつたでな。
それに脚気の原因が
あんまりこつちを追ひかけて
砂を走つたためなんだ
さうしてみればどうだやつぱり凱旋だらう。
殊にも一つほめられていゝことは
十万人もでかけたものが
九万人まで戻つて来た。
死《しん》だやつらは気の毒だが
三十年の間には
たとへいくさに行かなくたつて
一割ぐらゐは死ぬんぢやないか。
そこでラユーのむかしのともよ
またこどもらよきやうだいよ
北守将軍ソンバーユーと
その軍勢が帰つたのだ
門をあけてもいゝではないか。」
[#ここで字下げ終わり]
さあ城壁のこつちでは、沸《わ》きたつやうな騒動だ。うれしまぎれに泣くものや、両手をあげて走るもの、じぶ
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