や鎧《よろひ》の気配、また号令の声もして、向ふはすつかり、この町を、囲んでしまつた模様であつた。
番兵たちや、あらゆる町の人たちが、まるでどきどきやりながら、矢を射る孔《あな》からのぞいて見た。壁の外から北の方、まるで雲霞《うんか》の軍勢だ。ひらひらひかる三角旗や、ほこがさながら林のやうだ。ことになんとも奇体なことは、兵隊たちが、みな灰いろでぼさぼさして、なんだかけむりのやうなのだ。するどい眼《め》をして、ひげが二いろまつ白な、せなかのまがつた大将が、尻尾《しつぽ》が箒《はうき》のかたちになつて、うしろにぴんとのびてゐる白馬《はくば》に乗つて先頭に立ち、大きな剣を空にあげ、声高々と歌つてゐる。
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「北守将軍ソンバーユーは
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いま塞外《さいぐわい》の砂漠《さばく》から
やつとのことで戻つてきた。
勇ましい凱旋《がいせん》だと云ひたいが
実はすつかり参つて来たのだ
とにかくあすこは寒い処《ところ》さ。
三十年といふ黄いろなむかし
おれは十万の軍勢をひきゐ
この門をくぐつて威張つて行つた。
それからどうだもう見るものは空ばかり
風は乾いて砂を吹き
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