わしは将軍ソンバーユーぢや。何分ひとつたのみたい。」
「いや、その由を伺《うかが》ひました。あなたのお馬はたしか三十九ぐらゐですな。」
「四捨五入して、さうぢや、やつぱり三十九ぢやな。」
「ははあ、たゞいま手術いたします。あなたは馬の上に居て、すこし煙いかしれません。それをご承知くださいますか。」
「煙い? なんのどうして煙《けむ》ぐらゐ、砂漠《さばく》で風の吹くときは、一分間に四十五以上、馬を跳躍させるんぢや。それを三つも、やすんだら、もう頭まで埋まるんぢや。」
「ははあ、それではやりませう。おい、フーシユ。」プー先生は弟子を呼ぶ。弟子はおじぎを一つして、小さな壺《つぼ》をもつて来た。プー先生は蓋《ふた》をとり、何か茶いろな薬を出して、馬の眼《まなこ》に塗りつけた。それから「フーシユ」とまた呼んだ。弟子はおじぎを一つして、となりの室《へや》へ入つて行つて、しばらくごとごとしてゐたが、まもなく赤い小さな餅《もち》を、皿《さら》にのつけて帰つて来た。先生はそれをつまみあげ、しばらく指ではさんだり、匂《にほひ》をかいだりしてゐたが、何か決心したらしく、馬にぱくりと喰べさせた。ソン将軍は、そ
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