行く。
「いゝや、それには及ばない。わたしの馬はこれぐらゐ、まるで何とも思つてやしない。」
将軍は馬にむちをやる。
ぎつ、ばつ、ふう。馬は土塀をはね越えて、となりのリンプー先生の、けしのはたけをめちやくちやに、踏みつけながら立つてゐた。
四、馬医リンブー先生
ソン将軍が、お医者の弟子と、けしの畑をふみつけて向ふの方へ歩いて行くと、もうあつちからもこつちからも、ぶるるるふうといふやうな、馬の仲間の声がする。そして二人が正面の、巨《おほ》きな棟《むね》にはひつて行くと、もう四方から馬どもが、二十|疋《ぴき》もかけて来て、蹄《ひづめ》をことこと鳴らしたり、頭をぶらぶらしたりして、将軍の馬に挨拶《あいさつ》する。
向ふでリンプー先生は、首のまがつた茶いろの馬に、白い薬を塗つてゐる。さつきの弟子が進んで行つて、ちよつと何かをさゝやくと、馬医のリンプー先生は、わらつてこつちをふりむいた。巨きな鉄の胸甲《むなあて》を、がつしりはめてゐることは、ちやうどやつぱり鎧《よろひ》のやうだ。馬にけられぬためらしい。将軍はすぐその前へ、じぶんの馬を乗りつけた。
「あなたがリンプー先生か。
前へ
次へ
全24ページ中16ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング