。」
「いやいや、わしは勘定などの、十や二十はどうでもいいんぢや。それは算師がやるでなう。わしは早速この馬と、わしをはなしてもらひたいんぢや。」
「なるほどそれはあなたの足を、あなたの服と引きはなすのは、すぐ私に出来るです。いやもう離れてゐる筈《はず》です。けれども、ずぼんが鞍《くら》につき、鞍がまた馬についたのを、はなすといふのは別ですな。それはとなりで、私の弟がやつてゐますから、そつちへおいでいただきます。それにいつたいこの馬もひどい病気にかかつてゐます。」
「そんならわしの顔から生えた、このもじやもじやはどうぢやらう。」
「そちらもやつぱり向ふです。とにかくひとつとなりの方へ、弟子をお供に出しませう。」
「それではそつちへ行くとしよう。ではさやうなら。」
 さつきの白いきものをつけた、むすめが馬の右耳に、息を一つ吹き込んだ。馬はがばつとはねあがり、ソン将軍は俄《には》かに背《せい》が高くなる、将軍は馬のたづなをとり、弟子とならんで室《へや》を出る。それから庭をよこぎつて厚い土塀《どべい》の前に来た。小さな潜《くぐ》りがあいてゐる。
「いま裏門をあけさせませう。」助手は潜りを入つて
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