なの顔も俄《にはか》に淋《さび》しく見えました。
『まつくらでござんすなおばけが出さう』ボーイは少し屈《かが》んであの若い船乗りののぞいてゐる窓からちよつと外を見ながら云ひました。
『おや、変な火が見えるぞ。誰《たれ》かかがりを焚《た》いてるな。をかしい』
 この時電燈がまたすつとつきボーイは又
『紅茶はいかがですか』と云ひながら大股《おほまた》にそして恭しく向ふへ行きました。
 これが多分風の飛ばしてよこした切れ切れの報告の第五番目にあたるのだらうと思ひます。

       ×

 夜がすつかり明けて東側の窓がまばゆくまつ白に光り西側の窓が鈍い鉛色になつたとき汽車が俄にとまりました。みんな顔を見合せました。
『どうしたんだらう。まだベーリングに着く筈《はず》がないし故障ができたんだらうか。』
 そのとき俄に外ががや/\してそれからいきなり扉《とびら》ががたつと開き朝日はビールのやうにながれ込みました。赤ひげがまるで違つた物凄《ものすご》い顔をしてピカ/\するピストルをつきつけてはひつて来ました。
 そのあとから二十人ばかりのすさまじい顔つきをした人がどうもそれは人といふよりは白熊《
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