氷河鼠の毛皮
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)海月《くらげ》や

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三四人|居《を》りました。

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)ばさ/\した
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 このおはなしは、ずゐぶん北の方の寒いところからきれぎれに風に吹きとばされて来たのです。氷がひとでや海月《くらげ》やさまざまのお菓子の形をしてゐる位寒い北の方から飛ばされてやつて来たのです。
 十二月の二十六日の夜八時ベーリング行の列車に乗つてイーハトヴを発《た》つた人たちが、どんな眼《め》にあつたかきつとどなたも知りたいでせう。これはそのおはなしです。

       ×

 ぜんたい十二月の二十六日はイーハトヴはひどい吹雪でした。町の空や通りはまるつきり白だか水色だか変にばさ/\した雪の粉でいつぱい、風はひつきりなしに電線や枯れたポプラを鳴らし、鴉《からす》なども半分凍つたやうになつてふら/\と空を流されて行きました。たゞ、まあ、その中から馬そりの鈴のチリンチリン鳴る音が、やつと聞えるのでやつぱり誰《たれ
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