しろくま》といつた方がいゝやうな、いや、白熊といふよりは雪狐《ゆきぎつね》と云つた方がいいやうなすてきにもく/\した毛皮を着た、いや、着たといふよりは毛皮で皮ができてるというた方がいゝやうな、ものが変な仮面をかぶつたえり巻を眼まで上げたりしてまつ白ないきをふう/\吐きながら大きなピストルをみんな握つて車室の中にはひつて来ました。
 先登の赤ひげは腰かけにうつむいてまだ睡《ねむ》つてゐたゆふべの偉らい紳士を指さして云ひました。
『こいつがイーハトヴのタイチだ。ふらちなやつだ。イーハトヴの冬の着物の上にねラツコ裏の内外套《うちぐわいたう》と海狸《びばあ》の中外套と黒狐裏表の外外套を着ようといふんだ。おまけにパテント外套と氷河鼠《ひようがねずみ》の頸《くび》のとこの毛皮だけでこさへた上着も着ようといふやつだ。これから黒狐の毛皮九百枚とるとぬかすんだ、叩《たた》き起せ。』
 二番目の黒と白の斑《ぶち》の仮面をかぶつた男がタイチの首すぢをつかんで引きずり起しました。残りのものは油断なく車室中にピストルを向けてにらみつけてゐました。
 三番目のが云ひました。
『おい、立て、きさまこいつだなあの電気
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