。』
『さうだらうか、それから北極兄弟商会パテントの緩慢燃焼外套ね………。』
『大丈夫です』
『それから氷河鼠《ひようがねずみ》の頸《くび》のとこの毛皮だけでこさへた上着ね。』
『大丈夫です。しかし氷河鼠の頸のとこの毛皮はぜい沢ですな。』
『四百五十|疋《ぴき》分だ。どうだらう。こんなことで大丈夫だらうか。』
『大丈夫です。』
『わしはね、主に黒狐をとつて来るつもりなんだ。黒狐の毛皮九百枚持つて来てみせるといふかけをしたんだ。』
『さうですか。えらいですな。』
『どうだ。祝盃《しゆくはい》を一杯やらうか。』紳士はステームでだんだん暖まつて来たらしく外套を脱ぎながらウヱスキーの瓶《びん》を出しました。
すぢ向ひではさつきの青年が額をつめたいガラスにあてるばかりにして月とオリオンとの空をじつとながめ、向ふ隅《すみ》ではあの痩《やせ》た赤髯《あかひげ》の男が眼をきよろきよろさせてみんなの話を聞きすまし、酒を呑《の》み出した紳士のまはりの人たちは少し羨《うらや》ましさうにこの豪勢な北極近くまで猟に出かける暢気《のんき》な大将を見てゐました。
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毛皮外套をあんまり沢山もつ
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