男が乗つてゐました。そのほか痩て眉《まゆ》も深く刻み陰気な顔を外套《ぐわいたう》のえりに埋てゐる人さつぱり何でもないといふやうにもう睡《ねむ》りはじめた商人風の人など三四人|居《を》りました。
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汽車は時々素通りする停車場の踏切でがたつと横にゆれながら一生けん命ふゞきの中をかけました。しかしその吹雪もだん/\をさまつたのかそれとも汽車が吹雪の地方を越したのか、まもなくみんなは外の方から空気に圧《お》しつけられるやうな気がし、もう外では雪が降つてゐないといふやうに思ひました。黄いろな帆布の青年は立つて自分の窓のカーテンを上げました。そのカーテンのうしろには湯気の凍り付いたぎらぎらの窓ガラスでした。たしかにその窓ガラスは変に青く光つてゐたのです。船乗りの青年はポケツトから小さなナイフを出してその窓の羊歯《しだ》の葉の形をした氷をガリガリ削り落しました。
削り取られた分の窓ガラスはつめたくて実によく透とほり向ふでは山脈の雪が耿々《かうかう》とひかり、その上の鉄いろをしたつめたい空にはまるでたつたいまみがきをかけたやうな青い月がすきつとかゝつてゐました。
野原の雪は青
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