のふゞきの中に消えてしまひました。こゝまではたしかに私も知つてゐます。
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列車がイーハトヴの停車場をはなれて荷物が棚《たな》や腰掛の下に片附き、席がすつかりきまりますとみんなはまづつくづくと同じ車の人たちの顔つきを見まはしました。
一つの車には十五人ばかりの旅客が乗つてゐましたがそのまん中には顔の赤い肥《ふと》つた紳士がどつしりと腰掛けてゐました。その人は毛皮を一杯に着込んで、二人前の席をとり、アラスカ金の大きな指環《ゆびわ》をはめ、十連発のぴかぴかする素敵な鉄砲を持つていかにも元気さう、声もきつとよほどがらがらしてゐるにちがひないと思はれたのです。
近くにはやつぱり似たやうななりの紳士たちがめいめい眼鏡《めがね》を外したり時計を見たりしてゐました。どの人も大へん立派でしたがまん中の人にくらべては少し痩《やせ》てゐました。向ふの隅《すみ》には痩た赤ひげの人が北極狐《ほくきよくぎつね》のやうにきよとんとすまして腰を掛けこちらの斜《はす》かひの窓のそばにはかたい帆布《はんぷ》の上着を着て愉快さうに自分にだけ聞えるやうな微《かす》かな口笛を吹いてゐる若い船乗りらしい
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