かでタイチを押すやうにして出て行かうとしました。タイチは髪をばちやばちやにして口をびくびくまげながら前からはひつぱられうしろからは押されてもう扉《とびら》の外へ出さうになりました。
 俄《にはか》に窓のとこに居た帆布の上着の青年がまるで天井にぶつつかる位のろしのやうに飛びあがりました。
 ズドン。ピストルが鳴りました。落ちたのはたゞの黄いろの上着だけでした。と思つたらあの赤ひげがもう足をすくつて倒され青年は肥《ふと》つた紳士を又車室の中に引つぱり込んで右手には赤ひげのピストルを握つて凄《すご》い顔をして立つてゐました。
 赤ひげがやつと立ちあがりましたら青年はしつかりそのえり首をつかみピストルを胸につきつけながら外の方へ向いて高く叫びました。
『おい、熊《くま》ども。きさまらのしたことは尤《もつと》もだ。けれどもなおれたちだつて仕方ない。生きてゐるにはきものも着なけあいけないんだ。おまへたちが魚をとるやうなもんだぜ。けれどもあんまり無法なことはこれから気を付けるやうに云ふから今度はゆるして呉《く》れ。ちよつと汽車が動いたらおれの捕虜にしたこの男は返すから』
『わかつたよ。すぐ動かすよ』
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