の声なれば、 あはれさびしと我家の、
門立ち入りて白壁も、 落ちし土蔵の奥二階、 梨の葉かざす窓べにて、
筒のなかばを傾けて、 その歯に風を吸ひつゝも、 しばしをしんとものおもひ、
夜に日をかけて工み来し、 いかさまさいをぞ手にとりにける。



  〔水霜繁く霧たちて〕

水霜繁く霧たちて、  すすきは濡《そほ》ぢ幾そたび、
馬はこむらをふるはしぬ。

(荷繩を投げよはや荷繩)


雉子鳴くなりその雉子、  人なき家の暁を、
歩み漁りて叫ぶらし。



  〔あな雪か 屠者のひとりは〕

「あな雪か。」屠者のひとりは、  みなかみの闇をすかしぬ。

車押すみたりはうみて、      いらへなく橋板ふみぬ。

「雉なりき青く流れし。」      声またもわぶるがごとき。

落合に水の声して、        老いの屠者たゞ舌打ちぬ。



  著者

造園学のテキストに、   おのれが像を百あまり、
著者の原図と銘うちて、  かゝげしことも夢なれやと、
青き夕陽の寒天や、    U字の梨のかなたより、
革の手袋はづしつゝ、   しづにおくびし歩みくる。



  〔ほのあかり秋のあぎとは
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