ほのあかり秋のあぎとは、   ももどりのねぐらをめぐり、
官《つかさ》の手からくのがれし、    社司の子のありかを知らず。

社殿にはゆふべののりと、   ほのかなる泉の声や、
そのはははことなきさまに、  しらたまのもちひをなせる。



  〔毘沙門の堂は古びて〕

毘沙門の堂は古びて、    梨白く花咲きちれば、
胸疾みてつかさをやめし、  堂守の眼やさしき。

中ぞらにうかべる雲の、   蓋やまた椀《まり》のさまなる、
川水はすべりてくらく、   草火のみほのに燃えたれ。



  雪の宿

ぬさをかざして山つ祇、   舞ふはぶらいの町の書記、
うなじはかなく瓶《へい》とるは、  峡には一のうためなり。

をさけびたけり足ぶみて、  をどりめぐれるすがたゆゑ、
老いし博士《はくし》や郡長《こほりおさ》、     やゝ凄涼のおもひなり。

月や出でにし雪青み、    をちこち犬の吠ゆるころ、
舞ひを納めてひれふしつ、  罪乞ふさまにみじろがず。

あなや否とよ立てきみと、  博士が云へばたちまちに、
けりはねあがり山つ祇、   をみなをとりて消えうせぬ。



  [川し
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