く黒の雲、  ほそぼそめぐる風のみち、
苔蒸す塔のかなたにて、  大野青々みぞれしぬ。



  流氷《ザエ》

はんのきの高き梢《うれ》より、    きらゝかに氷華をおとし、
汽車はいまやゝにたゆたひ、  北上のあしたをわたる。

見はるかす段丘の雪、     なめらかに川はうねりて、
天青石《アヅライト》まぎらふ水は、     百千の流氷《ザエ》を載せたり。

あゝきみがまなざしの涯、   うら青く天盤は澄み、
もろともにあらんと云ひし、  そのまちのけぶりは遠き。

南はも大野のはてに、     ひとひらの吹雪わたりつ、
日は白くみなそこに燃え、   うららかに氷はすべる。



  〔夜をま青き藺むしろに〕

夜をま青き藺むしろに、   ひとびとの影さゆらげば、
遠き山ばた谷のはた、    たばこのうねの想ひあり。

夏のうたげにはべる身の、  声をちゞれの髪をはぢ、
南かたぶく天の川、     ひとりたよりとすかし見る。



  〔あかつき眠るみどりごを〕

あかつき眠るみどりごを、   ひそかに去りて小店さき、
しとみ上ぐれば川音や、    霧はさやかに流れたり。

よべ
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