の畑、      人もはかなくうまいしき。

人なき山彙《やま》の二日路を、    夜さりはせ来し酉蔵は、
塩のうるひの茎噛みて、    ふたゝび遠く遁れけり。



  〔萌黄いろなるその頸を〕

萌黄いろなるその頸を、   直くのばして吊るされつ、
吹雪きたればさながらに、  家鴨は船のごとくなり。

絣合羽の巡礼に、      五厘報謝の夕まぐれ、
わかめと鱈に雪つみて、   鮫の黒身も凍りけり。



  〔氷柱かゞやく窓のべに〕

氷柱かゞやく窓のべに、  「獺」とよばるゝ主幹ゐて、
横めきびしく扉《ドア》を見る。

赤き九谷に茶をのみて、  片頬ほゝゑむ獺主幹、
つらゝ雫をひらめかす。



  来賓

狩衣黄なる別当は、       眉をけはしく茶をのみつ。

袴羽織のお百姓、        ふたり斉しく茶をのみつ。

窓をみつめて校長も、      たゞひたすらに茶をのみつ。

しやうふを塗れるガラス戸を、  学童《こ》らこもごもにのぞきたり。



  五輪峠

五輪峠と名づけしは、   地輪水輪また火風、
(巌のむらと雪の松)   峠五つの故ならず。

ひかりうづま
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