なすことはさながらに、  風葱嶺に鳴るがごとし。

時しもあれや松の雪、  をちこちどどと落ちたれば、
室ぬちとみに明るくて、  品は四請を了へにけり。



  悍馬〔一〕

毛布の赤に頭《づ》を縛び、     陀羅尼をまがふことばもて、
罵りかはし牧人ら、      貴きアラヴの種馬の、
息あつくしていばゆるを、   まもりかこみてもろともに、
雪の火山の裾野原、      赭き柏を過ぎくれば、
山はいくたび雲※[#「さんずい+翁」、第4水準2−79−5、16−6]の、     藍のなめくぢ角のべて、
おとしけおとしいよいよに、  馬を血馬となしにけり。



  〔そのときに酒代つくると〕

そのときに酒代つくると、  夫《つま》はまた裾野に出でし。
そのときに重瞳の妻《め》は、   はやくまた闇を奔りし。
柏原風とゞろきて、     さはしぎら遠くよばひき。
馬はみな泉を去りて、    山ちかくつどひてありき。



  〔月の鉛の雲さびに〕

月の鉛の雲さびに、     みたりあやつり行き過ぎし、
魚や積みけんトラックを、  青かりしやとうたがへば、
松の梢のほのびかり、  
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