れしめ、
六道いまは分るらん、   あるじの徳を讃へけり。



  〔温く妊みて黒雲の〕

温く妊みて黒雲の、      野ばらの藪をわたるあり、
あるいはさらにまじらひを、  求むと土を這へるあり。

からす麦かもわが播けば、   ひばりはそらにくるほしく、
ひかりのそこにもそもそと、  上着は肩をやぶるらし。



  暁

さきは夜を截るほとゝぎす、  やがてはそらの菫いろ、
小鳥の群をさきだてて、    くわくこう樹々をどよもしぬ。

醒めたるまゝを封介の、    憤りほのかに立ちいでて、
けじろき水のちりあくた、   もだして馬の指竿とりぬ。



  上流

秋立つけふをくちなはの、  沼面はるかに泳ぎ居て、
水ぎぼうしはむらさきの、  花穂ひとしくつらねけり。

いくさの噂さしげければ、  蘆刈びともいまさらに、
暗き岩頸 風の雲、     天のけはひをうかゞひぬ。



  〔打身の床をいできたり〕

打身の床をいできたり、   箱の火鉢にうちゐれば、
人なき店のひるすぎを、   雪げの川の音すなり。

粉のたばこをひねりつゝ、  見あぐるそらの雨もよひ、
蠣売町のか
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