さき立つ名誉村長は〕

さき立つ名誉村長は、   寒煙毒をふくめるを、
豪気によりて受けつけず。

次なる沙弥は顱を円き、  猫毛の帽に護りつゝ、
その身は信にゆだねたり。

三なる技師は徳薄く、   すでに過冷のシロッコに、
なかば気管をやぶりたれ。

最後に女訓導は、     ショールを面に被ふれば、
アラーの守りあるごとし。



  〔僧の妻面膨れたる〕

僧の妻面膨れたる、      飯盛りし仏器さゝげくる。

(雪やみて朝日は青く、    かうかうと僧は看経。)

寄進札そゞろに誦みて、    僧の妻庫裡にしりぞく。

(いまはとて異の銅鼓うち、  晨光はみどりとかはる。)



  〔玉蜀黍を播きやめ環にならべ〕

「玉蜀黍を播きやめ環にならべ、  開所の祭近ければ、
さんさ踊りをさらひせん。」    技手農婦らに令しけり。

野は野のかぎりめくるめく、    青きかすみのなかにして、
まひるをひとらうちをどる、    袖をかざしてうちをどる。

さあれひんがし一つらの、     うこんざくらをせなにして、
所長中佐は胸たかく、       野面はるかにのぞみゐる。


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