るをとめらは、     おのおのよきに票を投げ、
高木検事もホップ噛む、      にがきわらひを頬になしき。

卓をめぐりて会長が、       メダルを懸くる午前二時、
カクタス、ショウをおしなべて、  花はうつゝもあらざりき。



  〔秘事念仏の大師匠〕〔一〕

秘事念仏の大師匠、    元真斎は妻子して、
北上岸にいそしみつ、   いまぞ昼餉をしたゝむる。

卓のさまして緑なる、   小松と紅き萱の芽と、
雪げの水にさからひて、  まこと睡たき南かぜ。

むしろ帆張りて酒船の、  ふとあらはるゝまみまぢか、
をのこは三たり舷に、   こちを見おろし見すくむる。

元真斎はやるせなみ、   眼をそらす川のはて、
塩の高菜をひた噛めば、  妻子もこれにならふなり。



  麻打

楊葉の銀とみどりと、   はるけきは青らむけぶり。

よるべなき水素の川に、  ほとほとと麻苧うつ妻。



  驟雨

驟雨そゝげば新墾《にひはり》の、    まづ立ちこむるつちけむり。

湯気のぬるきに人たちて、  故なく憤る身は暗し。

すでに野ばらの根を浄み、  蟻はその巣をめぐるころ。


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