さき立つ名誉村長は〕
さき立つ名誉村長は、 寒煙毒をふくめるを、
豪気によりて受けつけず。
次なる沙弥は顱を円き、 猫毛の帽に護りつゝ、
その身は信にゆだねたり。
三なる技師は徳薄く、 すでに過冷のシロッコに、
なかば気管をやぶりたれ。
最後に女訓導は、 ショールを面に被ふれば、
アラーの守りあるごとし。
〔僧の妻面膨れたる〕
僧の妻面膨れたる、 飯盛りし仏器さゝげくる。
(雪やみて朝日は青く、 かうかうと僧は看経。)
寄進札そゞろに誦みて、 僧の妻庫裡にしりぞく。
(いまはとて異の銅鼓うち、 晨光はみどりとかはる。)
〔玉蜀黍を播きやめ環にならべ〕
「玉蜀黍を播きやめ環にならべ、 開所の祭近ければ、
さんさ踊りをさらひせん。」 技手農婦らに令しけり。
野は野のかぎりめくるめく、 青きかすみのなかにして、
まひるをひとらうちをどる、 袖をかざしてうちをどる。
さあれひんがし一つらの、 うこんざくらをせなにして、
所長中佐は胸たかく、 野面はるかにのぞみゐる。
「いそぎひれふせ、ひざまづけ、 みじろがざれ。」と技手云へば、
種子やまくらんいこふらん、 ひとらかすみにうごくともなし。
〔うからもて台地の雪に〕
うからもて台地の雪に、 部落《シユク》なせるその杜黝し。
曙人《とほつおや》、馮《の》りくる児らを、 穹窿ぞ光りて覆ふ。
〔残丘《モナドノツク》の雪の上に〕
残丘《モナドノツク》の雪の上に、 二すぢうかぶ雲ありて、
誰かは知らねサラアなる、 女《ひと》のおもひをうつしたる。
信をだになほ装へる、 よりよき生へのこのねがひを、
なにとてきみはさとり得ぬと、 しばしうらみて消えにけり。
民間薬
たけしき耕の具を帯びて、 羆熊の皮は着たれども、
夜に日をつげる一月の、 干泥のわざに身をわびて、
しばしましろの露置ける、 すぎなの畔にまどろめば、
はじめは額の雲ぬるみ、 鳴きかひめぐるむらひばり、
やがては古き巨人の、 石の匙もて出できたり、
ネプウメリてふ草の葉を、 薬に食めとをしへけり。
〔吹雪かゞやくなかにして〕
吹雪かゞやくな
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