影の、 日を越し行くに外ならず。
老農
火雲むらがり翔《と》べば、 そのまなこはばみてうつろ。
火雲あつまり去れば、 麦の束遠く散り映う。
浮世絵
ましろなる塔の地階に、 さくらばなけむりかざせば、
やるせなみプジェー神父は、 とりいでぬにせの赤富士。
青|瓊《ぬ》玉かゞやく天に、 れいろうの瞳をこらし、
これはこれ悪業《あく》乎《か》栄光《さかえ》乎《か》、 かぎすます北斎の雪。
歯科医院
ま夏は梅の枝青く、 風なき窓を往く蟻や、
碧空《そら》の反射のなかにして、 うつつにめぐる鑿ぐるま。
浄き衣せしたはれめの、 ソーファによりてまどろめる、
はてもしらねば磁気嵐、 かぼそき肩ををののかす。
〔かれ草の雪とけたれば〕
かれ草の雪とけたれば
裾野はゆめのごとくなり
みじかきマント肩はねて
濁酒をさぐる税務吏や
はた兄弟の馬喰の
鶯いろによそほへる
さては「陰気の狼」と
あだなをもてる三百も
みな恍惚とのぞみゐる
退耕
ものなべてうち訝しみ、 こゑ粗き朋らとあり
前へ
次へ
全34ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング