て、
黄の上着ちぎるゝまゝに、 栗の花降りそめにけり。
演奏会《リサイタル》せんとのしらせ、 いでなんにはや身ふさはず、
豚《ゐのこ》はも金毛となりて、 はてしらず西日に駈ける。
〔白金環の天末を〕
白金環の天末を、 みなかみ遠くめぐらしつ、
大煙突はひさびさに、 くろきけむりをあげにけり。
けむり停まるみぞれ雲、 峡を覆ひてひくければ、
大工業の光景《さま》なりと、 技師も出でたち仰ぎけり。
早春
黒雲峡を乱れ飛び 技師ら亜炭の火に寄りぬ
げにもひとびと祟むるは 青き Gossan 銅の脈
わが索むるはまことのことば
雨の中なる真言なり
来々軒
浙江の林光文は、 かゞやかにまなこ瞠き、
そが弟子の足をゆびさし、 凛としてみじろぎもせず。
ちゞれ雲西に傷みて、 いささかの粉雪ふりしき、
警察のスレートも暮れ、 売り出しの旗もわびしき。
むくつけき犬の入り来て、 ふつふつと釜はたぎれど、
額《ぬか》青き林光文は、 そばだちてまじろぎもせず。
もろともに凍れるごとく、
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