しぶみしげきおのづから
種山ヶ原に燃ゆる火の
なかばは雲に鎖さるゝ



  ポランの広場


つめくさ灯ともす  宵の広場
むかしのラルゴを  うたひかはし
雲をもどよもし   夜風にわすれて
とりいれまぢかに  歳よ熟《う》れぬ

組合理事らは    藁のマント
山猫博士は     かはのころも
醸せぬさかづき   その数しらねば
はるかにめぐりぬ  射手《いて》や蠍



  巡業隊


霜のまひるのはたごやに、  がらすぞうるむ一瓶の、
酒の黄なるをわかちつゝ、  そゞろに錫の笛吹ける。

すがれし大豆《まめ》をつみ累げ、  よぼよぼ馬の過ぎ行くや、
風はのぼりをはためかし、  障子の紙に影刷きぬ。

ひとりかすかに舌打てば、  ひとりは古きらしゃ鞄、
黒きカードの面反《おもぞ》りの、   わびしきものをとりいづる。

さらにはげしく舌打ちて、  長《をさ》ぞまなこをそらしぬと、
楽手はさびしだんまりの、  投げの型してまぎらかす。



  夜


はたらきまたはいたつきて、  もろ手ほてりに耐へざるは、
おほかた黒の硅板岩礫《イキイシ》を、   にぎりてこそはまどろみき。

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