て、
三日月凍る銀|斜子《ななこ》。

沍《いて》たつ泥をほとほとと、  かまちにけりて支店長、
玻璃戸の冬を入り来る。

のれんをあげて理髪技士、  白き衣をつくろひつ、
弟子の鋏をとりあぐる。



  祭日〔一〕


谷権現の祭りとて、     麓に白き幟たち、
むらがり続く丘丘に、    鼓《こ》の音《ね》の数のしどろなる。

頴花《はな》青じろき稲むしろ、   水路のへりにたゝずみて、
朝の曇りのこんにやくを、  さくさくさくと切りにけり。



  保線工手


狸《マミ》の毛皮を耳にはめ、    シャブロの束に指組みて、
うつろふ窓の雪のさま、   黄なるまなこに泛べたり。

雪をおとして立つ鳥に、   妻がけはひのしるければ、
仄かに笑まふたまゆらを、  松は畳めり風のそら。



  〔南風の頬に酸くして〕


南風の頬に酸くして、  シェバリエー青し光芒。

天翔る雲のエレキを、  とりも来て蘇しなんや、いざ。



  種山ヶ原


春はまだきの朱《あけ》雲を
アルペン農の汗に燃し
繩と菩提樹皮《マダカ》にうちよそひ
風とひかりにちかひせり

繞る八谷に劈櫪の

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