すさびに紅き萱穂を   つみつどへ野をよぎるなれ



  岩手公園


「かなた」と老いしタピングは、  杖をはるかにゆびさせど、
東はるかに散乱の、        さびしき銀は声もなし。

なみなす丘はぼうぼうと、     青きりんごの色に暮れ、
大学生のタピングは、       口笛軽く吹きにけり。

老いたるミセスタッピング、    「去年《こぞ》なが姉はこゝにして、
中学生の一組に、         花のことばを教へしか。」

弧光燈《アークライト》にめくるめき、       羽虫の群のあつまりつ、
川と銀行木のみどり、       まちはしづかにたそがるゝ。



  選挙


(もつて二十を贏《か》ち得んや)   はじめの駑馬《うま》をやらふもの
(さらに五票もかたからず)   雪うち噛める次の騎者
(いかにやさらば太兵衛|一族《まき》)  その馬弱くまだらなる
(いなうべがはじうべがはじ)  懼るゝ声はそらにあり



  崖下の床屋


あかりを外《そ》れし古かゞみ、  客あるさまにみまもりて、
唖の子鳴らす空《から》鋏。

かゞみは映す崖のはな、  ちさき祠に蔓垂れ
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