七度はた五つ、   庚の申を重ぬれば、
稔らぬ秋を恐《かしこ》みて、   家長ら塚を理《をさ》めにき。

汗に蝕むまなこゆゑ、  昴《ばう》の鎖の火の数を、
七つと五つあるはたゞ、 一つの雲と仰ぎ見き。



  賦役


みねの雪よりいくそたび、  風はあをあを崩れ来て、
萌えし柏をとゞろかし、   きみかげさうを軋らしむ。

おのれと影とたゞふたり、  あれと云はれし業なれば、
ひねもす白き眼して、    放牧《のがひ》の柵をつくろひぬ。



  〔商人ら やみていぶせきわれをあざみ〕


商人ら、やみていぶせきわれをあざみ、
川ははるかの峡に鳴る。

ましろきそらの蔓むらに、 雨をいとなむみそさゞい、
黒き砂糖の樽かげを、   ひそかにわたる昼の猫。

病みに恥つむこの郷を、
つめたくすぐる春の風かな。



  風底


雪けむり閃めき過ぎて、  ひとしばし汗をぬぐへば、
布づつみになふ時計の、  リリリリとひゞきふるへる。



  〔雪げの水に涵されし〕


雪げの水に涵されし、   御料草地のどての上、
犬の皮着てたゞひとり、  菫外線をい行くもの。

ひかりとゞろく雪
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