ルプ花崗岩《みかげ》を、    おのも積む孤輪車《ひとつわぐるま》。

(山はみな湯噴きいでしぞ)  髪赭きわらべのひとり。

(われらみな主《ぬし》とならんぞ)  みなかみはたがねうつ音。

おぞの蟇みちをよぎりて、   にごり谷けぶりは白し。



  〔小きメリヤス塩の魚〕


小きメリヤス塩の魚、  藻草花菓子烏賊の脳、
雲の縮れの重りきて、  風すさまじく歳暮るゝ。

はかなきかなや夕さりを、  なほふかぶかと物おもひ、
街をうづめて行きまどふ、  みのらぬ村の家長たち。



  〔日本球根商会が〕


日本球根商会が、       よきものなりと販りこせば、
いたつきびとは窓ごとに、   春きたらばとねがひけり。

夜すがら温き春雨に、     風信子華の十六は、
黒き葡萄と噴きいでて、    雫かゞやきむらがりぬ。

さもまがつびのすがたして、  あまりにくらきいろなれば、
朝焼けうつすいちいちの、   窓はむなしくとざされつ。

七面鳥はさまよひて、     ゴブルゴブルとあげつらひ、
小き看護は窓に来て、     あなやなにぞといぶかりぬ。



  庚申


歳に
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