代の、  土手のきれ目をせな円み、
兎のごとく跳ねたるは、  かの耳しひの牧夫なるらん。



  病技師〔二〕


あへぎてくれば丘のひら、    地平をのぞむ天気輪、
白き手巾を草にして、      をとめらみたりまどゐしき。

大寺のみちをこととへど、    いらへず肩をすくむるは、
はやくも死相われにありやと、  粛涼をちの雲を見ぬ。



  〔西のあをじろがらん洞〕


西のあをじろがらん洞、    一むらゆげをはきだせば、
ゆげはひろがり環をつくり、  雪のお山を越し申す。

わさび田ここになさんとて、  枯草原にこしおろし、
たばこを吸へばこの泉、    たゞごろごろと鳴り申す。

それわさび田に害あるもの、  一には野馬 二には蟹、
三には視察、四には税、    五は大更の酒屋なり。

山を越したる雲かげは、    雪をそゞろにすべりおり、
やがては藍の松こめや、    虎の斑形を越え申す。



  卒業式


三宝または水差しなど、  たとへいくたび紅白の、
甘き澱みに運ぶとも、   鐘鳴るまではカラぬるませじと、
うなじに副へし半巾は、  慈鎮|和《くわ》尚のご
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