をなせるなり。


  〔翁面 おもてとなして世経るなど〕


翁面、  おもてとなして世経るなど、  ひとをあざみしそのひまに、
やみほゝけたれつかれたれ、  われは三十ぢをなかばにて、
緊那羅面とはなりにけらしな。



  氷上


月のたはむれ薫《く》ゆるころ、  氷は冴えてをちこちに、 さゞめきしげくなりにけり。

をさけび走る町のこら、  高張白くつらねたる、  明治女塾の舎生たち。

さてはにはかに現はれて、  ひたすらうしろすべりする、 黒き毛剃の庶務課長。

死火山の列雪青く、  よき貴人の死蝋とも、  星の蜘蛛来て網はけり。



  〔うたがふをやめよ〕


うたがふをやめよ、  林は寒くして、
いささかの雪凍りしき、  根まがり杉ものびてゆるゝを。

胸張りて立てよ、  林の雪のうへ、
青き杉葉の落ちちりて、  空にはあまた烏なけるを。

そらふかく息せよ、  杉のうれたかみ、
烏いくむれあらそへば、  氷霧ぞさつとひかり落つるを。



  電気工夫


(直き時計はさま頑《かた》く、   憎《ぞう》に鍛へし瞳《め》は強し)
さはあれ攀ぢる電塔の、   四方に
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