けふぞ陸穂を播きつくる。

雲紫に日は熟れて、     青らみそめし野いばらや、
川は川とてひたすらに、   八功徳水ながしけり。

たまたまその子口あきて、  楊の梢に見とるれば、
元信斎は歯軋りて、     石を発止と投げつくる。

蒼蠅ひかりめぐらかし、   練肥《ダラ》を捧げてその妻は、
たゞ恩人ぞ導師ぞと、    おのが夫《つま》をば拝むなり。



  〔廐肥をになひていくそたび〕


廐肥をになひていくそたび、  まなつをけぶる沖積層《アリビーム》、
水の岸なる新墾畑《にひばり》に、     往来もひるとなりにけり。

エナメルの雲 鳥の声、    唐黍焼きはみてやすらへば、
熱く苦しきその業に、     遠き情事のおもひあり。



  黄昏


花さけるねむの林を、    さうさうと身もかはたれつ、
声ほそく唱歌うたひて、   屠殺士の加吉さまよふ。

いづくよりか烏の尾ばね、  ひるがへりさと堕ちくれば、
黄なる雲いまはたへずと、  オクターヴォしりぞきうたふ。



  式場


氷の雫のいばらを、  液量計の雪に盛り、
鐘を鳴らせばたちまちに、  部長訓辞
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