てやゝしばし、  みなみの風に息づきぬ。

しらしら醸す天の川、     はてなく翔ける夜の鳥、
かすかに銭を鳴らしつゝ、   ひとは水《み》繩を繰りあぐる。



  臘月


みふゆの火すばるを高み、  のど嗽ぎあるじ眠れば、
千キロの氷をになひ、    かうかうと水車はめぐる。



  〔天狗蕈 けとばし了へば〕


天狗蕈、けとばし了へば、
親方よ、
朝餉とせずや、こゝな苔むしろ。
 ……りんと引け、
   りんと引けかし。
   +二八!
   その標うちてテープをさめ来!……

山の雲に、ラムネ湧くらし、
親方よ、
雨の中にていつぱいやらずや。



  牛


そは一ぴきのエーシャ牛、  夜の地靄とかれ草に、  角をこすりてたはむるゝ。

窒素工場の火の映えは、   層雲列を赤く焦き、
鈍き砂丘のかなたには、   海わりわりとうち顫ふ、
さもあらばあれ啜りても、  なほ啜り得ん黄銅の
月のあかりのそのゆゑに、  こたびは牛は角をもて、
柵を叩きてたはむるゝ。



  〔秘事念仏の大師匠〕〔二〕


秘事念仏の大師匠、     元信斎は妻子もて、
北上ぎしの南風、   
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