とに、  白雲よどみかゞやきぬ。

一石一字をろがみて、    そのかみひそにうづめけん、
寿量の品は神さびて、    みねにそのをに鎮まりぬ。



  〔塀のかなたに嘉莵治かも〕


塀のかなたに嘉莵治かも、     ピアノぽろろと弾きたれば、
一、あかきひのきのさなかより、  春のはむしらをどりいづ。
二、あかつちいけにかゞまりて、  烏にごりの水のめり。

あはれつたなきソプラノは、    ゆふべの雲にうちふるひ、
灰まきびとはひらめきて、     桐のはたけを出できたる。



  四時


時しも岩手軽鉄の、  待合室の古時計、
つまづきながら四時うてば、  助役たばこを吸ひやめぬ。

時しも赭きひのきより、  農学生ら奔せいでて、
雪の紳士のはなづらに、  雪のつぶてをなげにけり。

時しも土手のかなたなる、  郡役所には議員たち、
視察の件を可決して、  はたはたと手をうちにけり。

時しも老いし小使は、  豚にゑさかふバケツして、
農学校の窓下を、  足なづみつゝ過ぎしなれ。



  羅紗売


バビロニ柳掃ひしと、     あゆみをとめし羅紗売りは、
つるべをとり
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