波をながしくる、   かの峡川と北上は、
かたみに時を異にして、   ともに一度老いしなれ。

砂壌かなたに受くるもの、  多くは酸えず燐多く
洪積台の埴土壌土《はにひぢ》と、    植物群《フロラ》おのづとわかたれぬ。



 山躑躅


こはやまつつじ丘丘の、  栗また楢にまじはりて、  熱き日ざしに咲きほこる。

なんたる冴えぬなが紅ぞ、  朱もひなびては酸えはてし、  紅土《ラテライト》にもまぎるなり。

いざうちわたす銀の風、  無色の風とまぐはへよ、  世紀の末の児らのため。

さは云へまことやまつつじ、  日影くもりて丘ぬるみ、  ねむたきひるはかくてやすけき。



  〔ひかりものすとうなゐごが〕


ひかりものすとうなゐごが、  ひそにすがりてゆびさせる、
そは高甲の水車場の、     こなにまぶれしそのあるじ、
にはかに咳し身を折りて、   水こぼこぼとながれたる、
よるの胡桃の樹をはなれ、   肩つゝましくすぼめつゝ、
古りたる沼をさながらの、   西の微光にあゆみ去るなり。



  国土


青き草山雑木山、      はた松森と岩の鐘、
ありともわかぬ襞ご
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