と入り行きぬ。



  〔水楢松にまじらふは〕


「水楢松にまじらふは、    クロスワードのすがたかな。」
誰かやさしくもの云ひて、   いらへはなくて風吹けり。

「かしこに立てる楢の木は、  片枝青くしげりして、
パンの神にもふさはしき。」  声いらだちてさらに云ふ。

「かのパスを見よ葉桜の、   列は氷雲に浮きいでて、
なが師も説かん順列を、    緑の毬に示したり。」

しばしむなしく風ふきて、   声はさびしく吐息しぬ。
「こたび県の負債せる、    われがとがにはあらざるを。」



  硫黄


猛しき現場監督の、    こたびも姿あらずてふ、
元山あたり白雲の、    澱みて朝となりにけり。

青き朝日にふかぶかと、  小馬《ポニー》うなだれ汗すれば、
硫黄は歪み鳴りながら、  か黒き貨車に移さるゝ。



  二月


みなかみにふとひらめくは、  月魄の尾根や過ぎけん。

橋の燈《ひ》も顫ひ落ちよと、    まだき吹くみなみ風かな。

あゝ梵の聖衆を遠み、     たよりなく春は来《く》らしを。

電線の喚びの底を、      うちどもり水はながるゝ。



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