まんつ野原さ行ぐべすさ。」
 みんながまたあるきはじめたときわき水は何かを知らせるようにぐうっと鳴り、そこらの木もなんだかざあっと鳴ったようでした。
 五人は林のすその藪《やぶ》の間を行ったり岩かけの小さくくずれる所を何べんも通ったりして、もう上の野原の入り口に近くなりました。
 みんなはそこまで来ると来たほうからまた西のほうをながめました。
 光ったりかげったり幾通りにも重なったたくさんの丘の向こうに、川に沿ったほんとうの野原がぼんやり碧《あお》くひろがっているのでした。
「ありゃ、あいづ川だぞ。」
「春日明神《かすがみょうじん》さんの帯のようだな。」三郎が言いました。
「何のようだど。」一郎がききました。
「春日明神さんの帯のようだ。」
「うな神さんの帯見だごとあるが。」
「ぼく北海道で見たよ。」
 みんなはなんのことだかわからずだまってしまいました。
 ほんとうにそこはもう上の野原の入り口で、きれいに刈られた草の中に一本の大きな栗《くり》の木が立って、その幹は根もとの所がまっ黒に焦げて大きな洞《ほら》のようになり、その枝には古い繩《なわ》や、切れたわらじなどがつるしてありました。
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