んなの家がずうっと下に見え、一郎のうちの木小屋の屋根が白く光っています。
 道が林の中に入り、しばらく道はじめじめして、あたりは見えなくなりました。そしてまもなくみんなは約束のわき水の近くに来ました。するとそこから、
「おうい。みんな来たかい。」と三郎の高く叫ぶ声がしました。
 みんなはまるでせかせかと走ってのぼりました。向こうの曲がり角《かど》の所に三郎が小さなくちびるをきっと結んだまま、三人のかけ上って来るのを見ていました。
 三人はやっと三郎の前まで来ました。けれどもあんまり息がはあはあしてすぐには何も言えませんでした。嘉助などはあんまりもどかしいもんですから、空へ向いて「ホッホウ。」と叫んで早く息を吐いてしまおうとしました。すると三郎は大きな声で笑いました。
「ずいぶん待ったぞ。それにきょうは雨が降るかもしれないそうだよ。」
「そだら早ぐ行ぐべすさ。おらまんつ水飲んでぐ。」三人は汗をふいてしゃがんで、まっ白な岩からごぼごぼ噴《ふ》きだす冷たい水を何べんもすくってのみました。
「ぼくのうちはここからすぐなんだ。ちょうどあの谷の上あたりなんだ。みんなで帰りに寄ろうねえ。」
「うん。
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