入れませんでした。砂糖を入れると酒になるので、罰金です。その四十本のうち、十本ばかりはほかのうちのやうに、一本三十銭づつで町の者に売ってやりましたが、残りは毎晩耕平が、
「うう、渋、うう、酸っかい。湧《わ》ぃでるぢゃい。」なんて云ひながら、一本づつだんだんのんでしまったのでした。
さて瓶がずらりと板の間にならんで、まるでキラキラします。おかみさんは足もとの板をはづして床下の落しに入って、そこからこっちに顔を出しました。
耕平は、
「さあ、いゝが。落すな。瓶の脚揃《そろ》ぇでげ。」なんて云ひながら、それを一本づつ渡します。
[#ここから4字下げ]
耕平は、潰し葡萄を絞りあげ、
砂糖を加へ、
瓶《びん》にたくさんつめこんだ。
[#ここで字下げ終わり]
と斯《か》う云ふわけです。
(五)[#「(五)」は縦中横]
あれから六日たちました。
向ふの山は雪でまっ白です。
草は黄いろに、をととひなどはみぞれさへちょっと降りました。耕平とおかみさんとは家の前で豆を叩《たた》いて居《を》りました。
そのひるすぎの三時|頃《ころ》、西の方には縮れた白い雲がひどく光って、どうも何か
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