葡萄水
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)葡萄《ぶだう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)まっ黒|戸棚《とだな》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)(一)[#「(一)」は縦中横]
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     (一)[#「(一)」は縦中横]

 耕平は髪も角刈りで、おとなのくせに、今日は朝から口笛などを吹いてゐます。
 畑の方の手があいて、こゝ二三日は、西の野原へ、葡萄《ぶだう》をとりに出られるやうになったからです。
 そこで耕平は、うしろのまっ黒|戸棚《とだな》の中から、兵隊の上着を引っぱり出します。
 一等卒の上着です。
 いつでも野原へ出るときは、きっとこいつを着るのです。
 空が光って青いとき、黄いろなすぢの入った兵隊服を着て、大手をふって野原を行くのは、誰《たれ》だっていゝ気持ちです。
 耕平だって、もちろんです。大きげんでのっしのっしと、野原を歩いて参ります。
 野原の草もいまではよほど硬くなって、茶いろやけむりの穂を出したり、赤い実をむすんだり、中にはいそがしさうに今年のおしまひの小さな花を開いて
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